東北大学大学院環境科学研究科

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アクティビティ(2025年度)

2026/01/16 海底熱水噴出孔における「深海発電現象」を解明
―チムニーの発達が熱から電気への変換を促進―

プレスリリース

図1. 伊豆・小笠原海域の熱水噴出孔のチムニーの産状と鉱物組織。 (A)水深1332mの海底で観察される活発に熱水を噴出しているチムニー。 (B)海底で熱水の温度計測をしている様子。熱水噴出孔の周辺にカニが生息している。 (C)若いチムニーの電子顕微鏡写真。重晶石に富み空隙が多い。 (D)閃亜鉛鉱が主体の緻密なチムニー。 (E, F)成熟したチムニー試料の断面の写真(E)とその電子顕微鏡写真(F)。 熱水流路周りに黄銅鉱に富む層ができている。電子顕微鏡写真の黒色部分は熱水流路(空隙)を示す。※クリックで拡大

図2. 硫化鉱物とチムニーの電気特性。 (A)代表的な硫化鉱物のゼーベック係数。黄鉄鉱、黄銅鉱、方鉛鉱は全て、ゼーベック係数が負の値を持つため、電子をキャリアとするn型半導体であることがわかる。 (B)ゼーベック係数の絶対値と電気伝導度の対数プロット。カラー等高線は熱電性能を示すパワーファクターを示している。 チムニー形成初期の構成物質(重晶石や閃亜鉛鉱)は電気伝導度が低く、パワーファクターが小さい。 チムニーが成熟して、熱水流路周辺に黄銅鉱や方鉛鉱の層ができると電気伝導度が増加し、熱電変換性能が発現することがわかる。※クリックで拡大

図3. 本研究で示された深海底のチムニーの発達過程と熱起電力による発電現象の仕組み。 (A)ステージ I : チムニーの初期過程において硫酸塩鉱物からなる析出物ができる。Sステージ II:チムニー壁が形成され、まず、亜鉛の硫化鉱物が富む。 ステージ III:さらに温度が上昇すると、導電性の高い黄鉄鉱や方鉛鉱からなる層が熱水流路周りに形成され、熱起電力による電子の流れが発生する。 ステージIV:熱水活動が止まると温度勾配がなくなり熱起電力はゼロに戻る。 (B)ステージIIIにおける熱水と海水の電位差と、温度勾配に駆動される発電現象の概略図。 還元的な熱水から酸化的な熱水へチムニー壁を介して、熱水側から海水側への電子の流れが発生する。 海水側では例えば、酸素が電子を受け取って水に変化する反応が起こると考えられるが、 温度差によって発生した熱起電力によって、この反応が進むためには高いエネルギーの障壁を越えて反応を促進させると考えられる。※クリックで拡大

【発表のポイント】

  • 深海の熱水噴出孔に形成される硫化物チムニー 注1 が、熱を電気に変える自然の発電装置として働くことを発見しました。
  • チムニーは形成初期には電気を通しませんが、成長すると電気を通すようになり、チムニー内外の温度差によって、電子が海水側へ自然に移動します。
  • チムニー発達に伴う構成鉱物の割合や温度構造の変化によって、深海底に電気エネルギーが供給される仕組みが自発的に生まれます。

【概要】

深海底の熱水噴出孔では300˚Cを超える熱水が冷たい海水に噴き出し、硫化鉱物や硫酸塩鉱物からなる「チムニー」と呼ばれる柱状の構造が作られています(図1)。 これまで、熱水と海水の化学的な違いによって電気が生まれる可能性は指摘されてきましたが、熱水の温度の役割はわかっていませんでした。
当研究科の岡本敦教授らの研究グループは、伊豆・小笠原海域の深海底から採取したチムニー試料について、内部の構造や電気的な性質を詳しく調べました(図2)。

その結果、チムニー形成初期には電気を通しませんが、チムニーが成長して成熟するにつれて、鉄や銅、鉛などを含む電気を通しやすい硫化鉱物が、 熱水の通り道に沿って膜のように作られることがわかりました。 さらに、これらの硫化鉱物は熱を電気に変える性質を持ち、チムニー壁内外の温度差によって、電子が熱水側から海水側へ流れることがわかりました。 このことは、チムニーが成長していくある段階で、深海底で自然に発電する仕組みが作られることを示しています(図3)。 今後、深海底の生物を支えるエネルギー供給の理解や、噴き出す熱水の熱を利用した発電技術の研究につながると期待されます。
本成果は2026年1月8日、米国地質学会が発行する学術誌 Geology に掲載されました。

【用語解説】

注1. チムニー :海底の熱水活動によって供給された金属元素が、海底面上で硫化鉱物、酸化鉱物、珪酸塩鉱物、硫酸塩鉱物などとして沈殿し、熱水噴出孔の周囲に形成される煙突状の鉱体。

注2. 酸化還元 :酸化が電子を手放すこと、還元が電子を受け取ることを示し、それが必ず同時に起こるために酸化還元と呼ばれる。

注3. 半導体 :電気をよく通す金属とほとんど通さない絶縁体の中間の性質を持つ材料。電子が主に電気を運ぶ半導体をn型半導体と呼ぶ。

注4. 熱電変換 :温度差を直接電気エネルギーに変換したり、その逆に電気から温度差を生み出す技術。

注5. ゼーベック係数 :試料の両端に温度差を与えたときにどれだけ熱起電力(電圧)が生じるかを表す値。 この値が大きいほど、少しの温度差でも電圧を生みやすい材料と言える。n型半導体はゼーベック係数がマイナスの値を持つ。

注6. パワーファクター :温度差を与えたときに、どれだけ大きな電圧が生じ、さらに電気が流れやすいかを示す指標。

【論文・著者情報】

論文タイトル
Self-organized thermoelectric conversion systems on the deep seafloor
著者
Atsushi Okamoto*, Misaki Takahashi, Yoshinori Sato, Ryoichi Yamada, Kentaro Toda, Tomonori Ihara, Tatsuo Nozaki【*は責任著者】
掲載誌
Geology
DOI
10.1130/G53463.1
研究室HP
地球物質・エネルギー学分野 岡本研究室