2025/03/05 機能性流体を用いて岩石の多方向にき裂を造成できる新しい岩石破砕法を開発 ―資源開発の効率が劇的に向上―
【ポイント】
- ずり速度によって粘度が大幅に変化するせん断増粘流体(STF) 注1 を水圧破砕の破砕流体として使用し、室内岩石実験でその効果を検証しました。
- これまでの水圧破砕では岩石は一方向にしか破砕しなかったのに対し、STFを用いると多方向に破砕できることを発見しました。
- これは多方向の流体の流れやすさを向上させるために、資源開発の効率が劇的に向上することが期待されます。
【概要】
水圧破砕は、坑井 注2 を通して高圧の流体を地下に圧入し、岩石を破砕する(割る)技術であり、 我が国に多く賦存する地熱エネルギー、シェールガス・オイル等の非在来型資源、地球温暖化対策として有効な二酸化炭素地下貯留等の地下資源開発において、必要不可欠です。 き裂(岩の割れ目)を造成することは、地下の流体の流れやすさ(透水性)を向上させるため、効率的な地下開発につながります。 しかしながら、通常の水圧破砕では、き裂が造成できる方向は地下の応力状態で決定され、それ以外の方向にき裂を造成し、透水性を向上させることはできませんでした。 これが水圧破砕の技術的限界でしたが、もはやこれは、解決できる問題とも認識されていませんでした。
東北大学流体科学研究所の椋平祐輔助教(環境科学研究科協力講座)らの研究グループは、ずり速度によって粘度が劇的に変化するせん断増粘流体(STF)を、破砕流体として用いた室内岩石実験を行いました。 その結果、これまでの常識を覆し、坑井から多方向に伸びるき裂を造成することに成功しました。
本研究成果は、2025年2月15日付で科学誌International Journal of Rock Mechanics and Mining Sciencesに掲載されました。
なお本成果は、Zhang Rongchang大学院生、伊藤高敏教授、同大学環境科学研究科の博士後期課程の後藤遼太大学院生(現大成建設)、渡邉則昭教授、末吉和公助教、 博士前期課程の詫間康平大学院生(現日立製作所)、宇野正起准教授、同大学学際科学フロンティア研究所博士後期課程の新井裕子大学院生、 笘居高明教授、オーストラリア・サンシャインコースト大学のTian Tongfei講師、 オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の州立職業訓練専門学校であるテイフ・ニューサウスウェールズ のVladimir Sokolovski博士、北海道大学理学部の直井誠准教授との共同研究によるものです。
【研究の背景】
研究の背景
我が国に多く賦存する地熱エネルギー、シェールガス・オイル等の非在来型資源、地球温暖化対策として有効な二酸化炭素地下貯留等の地下資源開発では、 地下の流体の流れやすさ(透水性)を向上させることが効率的な開発につながります。 開発対象の地層に十分な透水性がない場合には、人工的に岩体にき裂(割れ目)を造成し、透水性を向上させます(図1)。 その技術が、水圧破砕です。 水圧破砕は、高圧の流体を、坑井を通して数kmの地下に圧入し、岩石を破砕し、き裂を造成します。 この水圧破砕の技術が成熟したことにより、シェールガスの開発が可能となり、シェールガス革命につながりました。
しかしながら、通常の水圧破砕では、き裂が造成できる方向は地下の応力状態で決定され、それ以外の方向にき裂を造成することはできませんでした。 つまり造成できるき裂は一方向のみで、それに従って、透水性を改善できる方向も限られます。 これが水圧破砕の技術的限界でしたが、もはやこれは、この分野では、流体を用いて破砕する以上解決できる問題であるとすら認識されていませんでした。
今回の取り組み
本研究グループは、水に代えてずり速度によって粘度が劇的に変化するせん断増粘流体(STF)を、破砕流体として用いた室内岩石実験を行いました。 STFは、微細な粒子が溶媒中に分散しており、外力に対してクラスターを作り、それによる抵抗で、増粘すると考えられています。 地下の環境では、流速が速くなると粘度が増加し、ほぼ固体の様になると考えられます。 このSTFを破砕流体として用いて、本大学環境科学研究科に設置されている真三軸試験機 注3 を用いて、花崗岩で作成した岩石試験片の破砕実験を実施しました。 その結果、坑井から多方向に伸びるき裂を造成することに成功しました。 さらに、様々な応力条件で実験を行ったところ、応力の条件によらず、多方向にき裂を造成できました。 これは既存の水圧破砕が単純に水圧で岩石を破砕していたのに対し、STFの流体から準固体に変化する特徴を最大限活かしたことによるものです。
今後の展開
本研究の成果は、既存の水圧破砕技術の技術的限界を大きくアップデートする画期的な技術発展であり、地下の透水性改善に大いに貢献できます。 これまでの水圧破砕では一方向のみの透水性しか改善できなかったのですが、多方向にき裂を造成できると、多方向の透水性も改善できます。 これによって今までアクセスできなかった資源の回収が可能になると言えるほか、地熱開発の様な資源の貯留部が不均質に分布している状況でも、 貯留部に到達できる可能性を格段に上げ、地下開発の最も大きなコストである坑井掘削のコストを下げることができます。 STFによる岩石破砕は二酸化炭素地下貯留で対象となる岩石に対しても有効であると予想されるため、その実証実験も行っています。 ここでも多方向岩石破砕は、二酸化炭素の地下への注入効率を劇的に向上させると予想しています。 さらには近年大深度化が進んでいる鉱山開発でも適用が期待でき、今後様々な分野への応用が期待されます。
【謝辞】
本研究は、科学技術振興機構 (JST)、創発的研究支援事業(JPMJFR206Z)、JSPS科研費JP23K26596、JP22H02015、JP23K23283、JP21K18200、24K17139の支援により行われました。 本論文は「東北大学2024年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業」によりOpen Accessとなっています。
【用語解説】
注1. せん断増粘流体(STF) :流れのせん断応力が流れの速度勾配に比例しない、粘性係数が一定ではない非ニュートン流体の一種で、ダイラタンシー流体とも言います。 せん断速度の変化量に応じて粘度が変わり、サラサラした状態の時に強く力をかけると、力をかけたところだけが固くなるといった現象を起こします。 片栗粉を水で濃く溶いたものもこの流体です。
注2. 坑井(こうせい) :石油や天然ガスなどの地下資源鉱業において、地下の油ガスを生産したり、地下に流体を圧入するためほぼ鉛直に掘削する穴の総称です。
注3. 真三軸試験機 :真三軸試験機は、地下の岩石の変形破壊特性を求めるために使用される試験装置です。 一般的に三方向の主応力を全てピストンにより軸圧を載荷することにより、実際の地下と同じ様な圧力状態を再現できます。
【論文・著者情報】
- 論文タイトル
- Creating Multidirectional Fractures through Particle Jamming
- 著者
- Yusuke Mukuhira*, Ryota Goto, Noriaki Watanabe, Kazumasa Sueyoshi, Kohei Takuma, Rongchang Zhang, Tongfei Tian, Vladimir Sokolovski, Makoto Naoi, Yuko Arai, Takaaki Tomai, Masaoki Uno, Takatoshi Ito【*は責任著者】
- 掲載誌
- International Journal of Rock Mechanics and Mining Sciences