東北大学大学院環境科学研究科

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アクティビティ(2024年度)

2025/02/12 メタン生成アーキアに寄生するバクテリア
未知バクテリアの巨大系統群「CPR」に属する超微小バクテリアの培養に成功

プレスリリース

【ポイント】

  • メタン生成アーキアに寄生する超微小バクテリアの培養に世界で初めて成功
  • 培養に成功した種のメタン生成アーキアへの特異な寄生プロセスを観察
  • 培養に成功した種を「ミニシンコッカス アーカエイフィルス」、およびこの種が属する未知バクテリアの巨大系統群「CPR」を新門「ミニシンコッコータ」と命名

世界で初めて純粋二者培養に成功したアーキアに寄生する超微小CPRバクテリアPMX.108T株と新たな学名
※原論文の図を引用・改変したものを使用しています。

【概要】

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)生物プロセス研究部門 微生物生態工学研究グループ、黒田恭平 主任研究員、中島芽梨 技術研修員、成廣隆 研究グループ長らと、 国立研究開発法人海洋研究開発機構のMasaru K. Nobu(延優)主任研究員は、北海道大学、東北大学と共同で、メタン生成アーキアに寄生する超微小バクテリアの培養に成功し、新属新種として記載しました。
共同研究グループは、廃水処理システムの研究において中心的な役割を担う微生物(メタン生成アーキア)に寄生してその生理活性を低下させるバクテリアを、世界に先駆けて発見しており、 今回その培養に成功しました。本研究は、約40億年前に進化的に分かれ、細胞膜脂質や遺伝子情報などが生物学的に大きく異なっているアーキアに寄生するバクテリアを培養した世界初の例です。 「ミニシンコッカス アーカエイフィルス(Minisyncoccus archaeiphilus)」と命名したこのバクテリアは、寄生できる宿主の範囲が非常に狭く、宿主アーキア特有の部位にのみ感染することが観察されました。
さらに、「ミニシンコッカス アーカエイフィルス」が属する未知バクテリア巨大系統群である「Candidate phyla radiation (CPR) 注1 」を新門「ミニシンコッコータ(Minisyncoccota)」と命名しました。 本研究において系統学的に整理し、分離株を公的菌株保存機関へ寄託することにより、CPRに関する研究が進み、 これまで謎に包まれていたCPRに属するバクテリア(以下、CPRバクテリア)の生理や生態学的役割の理解が進むことが期待されます。
なお、この成果の詳細は、2025年2月10日(グリニッジ標準時)に科学雑誌「International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology」に掲載されました。

【開発の社会的背景】

未知バクテリアの巨大系統群であるCPRは自然環境や廃水処理場などの人工生態系内に普遍的に存在していますが、 培養の困難さからそれらが生態系や人工バイオプロセスおよびそれが支えるバイオ産業などにどのような影響を与えるのか不明な点が数多く残されています。 CPRバクテリアは細胞やゲノムサイズが極小であり、増殖に必要な生合成経路を欠くことから、他の生物に寄生もしくは捕食する生活様式をとることが予測されてきました。 CPRバクテリアのうち、他のバクテリアを宿主とする数種類については培養例が報告されていますが、それらの分離株は公開されていません。 そのため、自由に利用可能なCPRのモデル生物が存在しない状態が研究分野の発展を妨げていました。

【研究の経緯】

共同研究グループは、微生物に焦点を置いた廃水処理技術の改良・開発に取り組んできました。 その中で、嫌気性廃水処理システムのメタン発酵汚泥からCPRバクテリアを検出し、これらが同じ汚泥中のメタン生成アーキアと正の相関をもって増殖すること、 CPRバクテリアと一緒に培養したメタン生成アーキアの生理活性が低下したことから、両者のドメイン 注2 を超えた寄生-宿主関係を見出していました(文献[1][2])。 メタン生成アーキアは嫌気性廃水処理の中核を担う微生物であり、CPRバクテリアは廃水処理の成否に関わる重要な微生物と考えられます。 そこで、メタン生成アーキアに寄生するCPRバクテリアの実態を明らかにするため、培養実験を行いました。
なお、本研究の一部は、日本学術振興会の科学研究費助成事業 基盤研究(B)(一般)(JP21H01471、JP23K20980)の支援を受けて実施しました。

【研究の内容】

新たな分類を提案するためには、環境中に生息する数多の微生物の中から特定の微生物株を純粋に培養して、さまざまな生育可能な条件やゲノム配列などを明らかにし、 その培養株を公的な菌株保存機関に寄託することで世界中の研究者が利用できるようにする必要があります。 しかしながら、地球上に存在する微生物の大多数は人工的に培養ができていません。 本研究では、CPRバクテリアがメタン生成アーキアに感染して生育することに着目し、メタン生成アーキアである「メタノスピリラム ヒュンゲッティ(Methanospirillum hungatei)」の培養物を用意し、 これにCPRバクテリアを含む培養物を孔径0.45 µmのフィルターでろ過して添加することでCPRバクテリア以外の微生物を排除しました。 残ったCPR以外のバクテリアに対し複数の抗生物質の添加などによって増殖阻害を行い、 最終的に「メタノスピリラム ヒュンゲッティ」とCPRバクテリア PMX.108T株との純粋な二者培養 注3 に成功しました(図1左)。
PMX.108T株は、細胞サイズが直径1 µm以下で絶対寄生性 注4 の超微小バクテリアであり、宿主のメタン生成アーキアの至適pHや温度範囲にPMX.108T株の最適な生育条件が存在することが分かりました(図1中央)。 これは、PMX.108T株は培養の接種源として用いた嫌気性廃水処理システムの汚泥(pH 7、温度37℃)に特徴的な生育をしていることを示唆しています。 さらに、メタノスピリラム ヒュンゲッティを含む8種類のメタン生成アーキアへの寄生可能性を評価した結果、このPMX.108T株が寄生するのはメタノスピリラム ヒュンゲッティのみであることも分かりました。 この特性を生かして、CPRバクテリアのモニタリングや廃水処理システムのpH・運転温度を調整することで、CPRバクテリアの感染によるメタン生成アーキアの生理活性の制御が可能となることが期待されます。
PMX.108T株は宿主細胞の端を認識して付着することから、宿主の細胞表面構造を認識する機構の存在が示唆されました(図1右)。 さらに顕微鏡観察とゲノム情報に基づき、これまで報告されている超微小寄生微生物が持つ鞭毛 注5 遺伝子がPMX.108T株には存在しないことが明らかになりました。 これらは、PMX.108T株が既知の寄生とは全く異なるメカニズムを持つことを示唆しています。この寄生メカニズムを解明することで、なぜCPRバクテリアが生物学的に全く異なるアーキアに感染して生育するように至ったのか、進化的な道筋の解明にもつながります。

図1. (左)PMX.108T株と宿主アーキア「メタノスピリラム ヒュンゲッティ JF-1T株」の電子顕微鏡写真、(中央)至適生育範囲やゲノム情報の比較、(右)蛍光顕微鏡写真(青:微生物のDNAを染色、ピンク:PMX.108TのRNAを染色、緑:メタノスピリラムのRNAを染色)
※原論文の図を引用・改変したものを使用しています。

CPRの系統分類はこれまで定まっておらず、それが機能や宿主の予測およびCPRの生態系内での制御技術の開発の大きな妨げとなっていました。 この巨大な系統群の他のバクテリアとの系統的・分類学的関係性について複数の仮説が報告されてきましたが、いまだに統一した見解は得られていませんでした。 本研究では、ゲノム情報に基づいて分子系統解析を行うことで、CPRが「バシラティ(Bacillati)界」に属し、クロロフレキシ(Chloroflexota)門と姉妹門を形成する1つの「門」であることを示しました(図2)。

図2. ゲノム情報に基づいた分子系統樹
※原論文の図を引用・改変したものを使用しています。

今回、培養したPMX.108T株の特徴にちなんで、「他の生物と共生する球菌」と「アーキアを好む」ことを表す「ミニシンコッカス アーカエイフィルス(Minisyncoccus archaeiphilus)」と命名し、 さらにこの基準株を含む門を新門「ミニシンコッコータ(Minisyncoccota)」と命名しました。
なお、産総研が新たな門を代表する基準株となるバクテリアを世界で初めて培養するのはこれで5例目となります (1〜4例目:2003年11月10日産総研プレス発表2011年6月1日産総研プレス発表2020年12月14日産総研プレス発表2024年6月3日産総研プレス発表)。

【今後の予定】

今後は、自然環境や人工生態系内に普遍的に存在するミニシンコッコータ門のバクテリアが微生物生態系における物質循環へ与える影響を評価します。 さらに、このバクテリアの実態を明らかにすることで、さまざまな廃水処理システムの新規診断・制御技術の開発を試みます。 加えて、「ミニシンコッカス アーカエイフィルス」が宿主であるメタン生成アーキアに寄生するメカニズムを解明し、この超微小バクテリアがアーキアにドメインを超えて寄生するメカニズムを明らかにします。 新規命名したミニシンコッコータ門に属する微生物のさらなる分離培養を試みることで、ミニシンコッコータ門の生理・生態学的な理解を深めることを目指します。

【研究者等情報】

  • 産業技術総合研究所総合研究所 生物プロセス研究部門
    微生物生態工学研究グループ

    黒田 恭平 主任研究員(兼 北海道大学・大学院工学研究院)
    成廣 隆 研究グループ長(兼 北海道大学・大学院工学研究院)
    中井 亮佑 主任研究員

    生物資源情報基盤研究グループ

    平片 悠河 産総研特別研究員

  • 北海道大学・大学院工学院

    中島 芽梨 博士後期課程(兼 産総研・生物プロセス研究部門 技術研修員)

  • 北海道大学・大学院工学研究院

    佐藤 久 教授

  • 東北大学・大学院環境科学研究科

    久保田 健吾 准教授

  • 海洋研究開発研究機構 超先鋭研究開発部門

    延 優 主任研究員

【論文情報】

掲載誌
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
論文タイトル
Minisyncoccus archaeiphilus gen. nov., sp. nov., a mesophilic, obligate parasitic bacterium and proposal of Minisyncoccaceae fam. nov., Minisyncoccales ord. nov., Minisyncoccia class. nov., and Minisyncoccota phyl. nov. formerly referred to as Candidatus Patescibacteria or candidate phyla radiation
著者
Meri Nakajima, Ryosuke Nakai, Yuga Hirakata, Kengo Kubota, Hisashi Satoh, *Masaru K. Nobu, *Takashi Narihiro, *Kyohei Kuroda【*は共同責任著者】
DOI
https://doi.org/10.1099/ijsem.0.006668
【参考文献】

[1] 黒田ら, Candidate phyla radiation (CPR)/Candidatus Patescibacteria の実態を 廃水処理システムの視点から理解する, 日本微生物生態学会誌38 巻1号 2–13, 2023.
[2] Kuroda and Nakajima et al., “Microscopic and metatranscriptomic analyses revealed unique cross-domain parasitism between phylum Candidatus Patescibacteria/candidate phyla radiation and methanogenic archaea in anaerobic ecosystems”, mBio, Volume 15 Issue 3, 2024.

【用語解説】

注1. Candidate phyla radiation (CPR) :2013年に3つのバクテリア候補門を含む上門(門のさらに上の概念)として“パテシバクテリア上門”が提案された。その後、2015年に35以上のバクテリアの候補門を含み、全バクテリアの15%以上を占める巨大系統群「CPR」が提唱された。近年のゲノム情報に基づいた分子系統解析により、CPRが単一の門を構成するグループであると認識されてきており、その暫定的な学名としてパテシバクテリア候補門(Candidatus Patescibacteria)が名付けられていた。

注2. ドメイン :DNA情報を用いた解析方法によって地球上の生物は大きくバクテリア(細菌)、アーキア(古細菌)、真核生物に分類され、これを3ドメイン説という。アーキアに寄生して生育するバクテリアの純粋二者培養に成功した例は、本研究が初めてとなる。

注3. 二者培養 :単独では生育できない微生物を、その共生もしくは寄生先となる微生物と共に生育させることで、培養を可能とする方法。

注4. 絶対寄生性 :生育に宿主を必要とする生物のことであり、一般には、寄生する生物のみが宿主から利益を得る関係のことを示す。

注5. 鞭毛 :複数のタンパク質が組み合わさった細長い紐のような運動器官であり、微生物細胞の運動を制御する役割がある。我々が発見したCPRバクテリアと同様にアーキアを宿主とする超微小アーキアにおいては、短時間の自由遊泳運動を行うことで宿主を探索する生活環を持つことが示唆されている。