東北大学大学院環境科学研究科

東北大学大学院環境科学研究科

アクティビティ(2023年度)

2023/04/06 生分解性プラスチックとその繊維強化複合材料の分解過程における強度変化を工学部1年生が解明
―中長期間にわたって使用可能なプラスチック製品の開発を加速―

電界放出形走査電子顕微鏡で観察された複合材料の破断面

プラスチック汚染は、1970年代以降、国際的な環境問題として認識されています。 一方、プラスチックは、世界的な生産量が年間数億トンに達しており、埋立地や自然環境に廃棄されることで、公害問題を引き起こしています。 そこで、生分解性プラスチックが大きく注目されており、石油由来のプラスチックの代替材として期待されています。 しかし、生分解性プラスチックは石油由来のプラスチックと比較して機械特性が低く、また、分解過程における生分解性プラスチックの機械特性変化はほとんど解明されていないのが現状です。 さらに最近は、自然界に存在する再生可能な資源を原料にした材料を生産する動きがあります。

東北大学工学部材料科学総合学科の1年生6名(現在3年生)は、当研究科の栗田大樹助教、成田史生教授の研究グループ、 滋賀県立大学の工藤慎治講師、畑山翔講師と共同で、代表的な生分解性プラスチックの1つであるポリブチレンサクシネート(PBS)と、 PBSを玄武岩由来の天然繊維であるバサルト繊維(BF)織物で強化した複合材料(PBS-BF)の生分解過程における引張特性変化を明らかにしました。 生分解過程における機械特性変化を正確に理解することで、ビニール袋やスプーン、ストローといった一時的な用途ではなく、 中長期間にわたって使用可能なプラスチック製品の開発が実現可能になります。

実験は東北大学工学部1年生を対象とした少人数教育の授業科目「創造工学研修」で実施され、成果は2023年4月6日に国際学術雑誌Polymers (MDPI)のオンライン版で公開されました。

研究の背景

石油由来のプラスチックによる環境破壊を防ぎ、持続可能社会を実現するために、生分解性プラスチック注1の実用化が期待されています。 しかし、分解過程における生分解性プラスチックの機械特性変化はほとんど知られていないのが現状です。

今回の取り組み

図1 (a) PBS-BF 複合材料および PBSシート、
(b) 複合材料の構造概略図

図2 PBS および PBS-BF 複合材料の微生物分解試験

PBSシートとPBS-BF複合材料を作製し、PBS分解バクテリア溶液を用いて、分解に伴う引張特性変化について検討しました。 図1 (a)は試験片の写真を示したもので、PBS-BF複合材料は、3枚のPBSシートの間に2枚のBF織物を挟み込んだものです(図1(b))。

図2はPBSおよびPBS-BF複合材料を用いた微生物分解試験の概要を示したものです。 ISP1ブロス注2と菌体懸濁液を入れた三角フラスコに、PBSとPBS-BF複合試料を3個ずつ入れ、アルミホイルで密閉して培養しました。 1、2、4、6、8週間後、PBSおよびPBS-BF複合材料をフラスコから取り出し、殺菌して滅菌生理食塩水で洗浄後、引張試験を行いました。 また、引張特性評価後には、走査電子顕微鏡を用いて破断面の観察も行いました。

図3(a)および(b)は、それぞれPBSシートおよびPBS-BF複合材料の応力-ひずみ線図を示したものです。 実験開始から7日後、PBSシートの破断伸びは著しく低下しました。PBS分解バクテリアの有無にかかわらず、PBSシートの引張特性に差がなかったことから、 破断伸びの低下はPBSシートの吸水および加水分解に起因するものと考えられます。 実験開始から56日後、PBSシートの引張強度はほとんど低下していませんでしたが、破断伸びは著しく低下しました。 一方、PBS-BF複合材料は、引張強度がPBSの4倍以上で、かつ、PBS分解バクテリアを含まないISP1ブロスに7日間および56日間浸漬しても、引張強度はほとんど変化しないことがわかりました。 しかし、PBS分解バクテリア溶液に浸漬した場合、56日後にはPBS-BF複合材料の引張強度は作製直後の約半分にまで低下しました。 この劣化は、構造的に弱いBF/PBS界面にPBS分解バクテリア溶液が浸入して材料全体の分解を引き起こしたことに起因すると考えられます。 図4は、分解試験開始から56日後までの引張強度の変化をまとめたものです。 このような学術的価値と新規性の高い研究成果が工学部材料科学総合学科の1年生によって得られたことは注目に値し、東北大学の研究レベルの高さを窺わせます。

図3  (a) PBS および (b) PBS-BF 複合試験片の分解前、分解試験開始から7日後および56日後における応力-ひずみ線図(Blank:バクテリアを含まないISP1ブロスに浸漬した試験片)

図4  PBSおよびPBS-BF試験片の引張強度と分解日数との関係

今後の展開

現在、生分解性プラスチックはビニール袋やスプーン、ストローといった一時的な用途のプラスチック製品への適用が検討されています。 しかし、本研究をきっかけに、分解過程における生分解性プラスチックの機械特性変化が正確に評価されることで、 中長期間にわたって使用可能なプラスチック製品の開発が実現可能になり、今後の研究展開が期待されます。

【用語説明】

注1. 生分解性プラスチック:微生物により、水と二酸化炭素に分解され環境に還元されるプラスチック(ポリマー)材料。

注2. ISP1ブロス:カゼイン分解物と酵母エキスから構成され、本研究で使用したPBS分解バクテリアを安定的に培養するための培地。