東北大学大学院環境科学研究科

東北大学大学院環境科学研究科

アクティビティ(2023年度)

2023/04/06 プレートの沈み込み帯の短期的な流体移動の痕跡を上盤マントルで発見 ―沈み込み帯における地震活動と流体との関係を示唆―

本研究で分析したオマーンオフィオライトの変質マントル(蛇紋岩)の掘削コア試料の観察結果。 (A)蛇紋岩のX線CT像。黄色〜赤色部分が蛇紋石脈。(B)図1 Bの領域の薄片写真。(C)図1 Cの領域のケイ素の元素マップ。蛇紋石脈の両側にケイ素に乏しい反応帯が形成されている。 (D)透過型電子顕微鏡による反応帯と母岩の境界のナノメートルスケール微細構造。反応帯と母岩との境界がシャープであることがわかる。

沈み込み帯(注1)で観測される地震活動は流体と密接に関係していると推測されてきました。 しかし沈み込み帯での流体活動の継続時間や速度について直接的な物的証拠を得ることは難しく、よくわかっていませんでした。 当研究科大学院生の吉田一貴氏と岡本敦教授、国士舘大学の大柳良介講師、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の木村正雄教授、 オランダ・ユトレヒト大学のオリバー・プランパー准教授、秋田大学大学院理工学研究科の福山繭子准教授は、 過去に沈み込み帯の上盤を構成したマントルの岩石から、特徴的な反応帯(注2)を伴う鉱物脈(注3)のネットワークを発見しました。 微量元素分析により、この鉱物脈は沈み込むプレートから供給された流体の痕跡であることを示しました。 さらに熱力学的解析及び物質移動モデリングにより、その流体活動の継続時間が非常に短期間(数ヶ月~数年)であり、流速が大きい(秒速0.1~1cm)ことを見出しました。 本研究で明らかにされた流体活動は、現在の沈み込み帯で観測されている微小地震の継続時間や震源の移動速度とも類似し、沈み込み帯における地震発生過程と流体活動との関連を示唆しています。 本成果は、沈み込むプレートの上盤マントルで生じている流体活動を岩石学的アプローチから初めて解明したものであり、プレート境界地震のメカニズムの解明に貢献できると期待されます。

本成果は、2023年4月6日、科学誌Science Advancesに掲載されました。

プレスリリース本文

【用語説明】

注1. 2つのプレートが互いに近づく境界で、一方のプレートが他方のプレート(上盤プレート)の下に沈み込む場所。

注2. 亀裂の周囲に、流体により局所的な元素やイオンの移動と反応が起こり、母岩とは別の鉱物が形成した領域。

注3. 岩石の亀裂に流体が流れ、流体から析出した鉱物により亀裂が充填されたもの。流体移動の痕跡。