東北大学大学院環境科学研究科

東北大学大学院環境科学研究科

アクティビティ(2023年度)

2023/09/12 屋根上太陽光発電とEVの活用が都市の脱炭素化に大きく貢献と試算
―イル・ド・フランス全体でCO2 排出量最大76%減に―


【発表のポイント】

  • 2050年カーボンニュートラルを実現するには、都市の脱炭素化を急ぐ必要があります。
  • フランス・パリにおいて屋根上太陽光発電と電気自動車(EV)を蓄電池として活用する「SolarEVシティー構想 注1 」で、都市の脱炭素化にどの程度貢献できるかフランスの研究所と試算しました。
  • パリは、周辺地域イル・ド・フランスと一体としてSolarEVシティーを構築することで効率的な脱炭素化につながると考えられます。

【概要】

パリ協定 注2 での温度目標の達成のために、急速な温暖化と気候変動を最小限にするには、2050年までにカーボンニュートラル 注3 を実現する必要があります。そのためには、化石燃料の使用をやめ、発電コストが化石燃料より安くなった再生可能エネルギーを最大限活用する必要があります。SolarEVシティー構想は、屋根上PVを最大限活用し普及の進むEVを蓄電として都市スケールで活用するものです。

分析の結果、パリは、面積当たりのエネルギー需要が高いため屋根上PVで賄えるエネルギーが限られますが、周辺地域のイル・ド・フランス全体として、屋根上PVとEVを蓄電池と使用するシステム(SolarEVシティー)を構築することで、最大23%程度のエネルギーコストの削減しつつ、電力と乗用車の運転に伴うCO2排出の最大76%削減に繋がることが分かりました。パリだけではPV+EVシステムは最大31%の電力供給(EV含む)に限られますが、郊外を含むイル・ド・フランスでは最大60%程度の電力供給が可能となります。

本研究成果は8月25日、エネルギー分野の専門誌Applied Energyに掲載されました。

【詳細な説明】

研究の背景

化石燃料の燃焼に伴うCO2排出のため、気候変動が年々深刻化しています。パリ協定の1.5度目標を達成するために、2050年までに世界全体でカーボンニュートラルを実現する必要があります。東北大学大学院環境科学研究科の小端准教授の研究グループは、これまで屋根上太陽光発電(PV)とEVの蓄電池を活用することで、都市の脱炭素化に大きな効果があることを研究で明らかにしてきました(SolarEVシティー構想)。これまでの研究では、日本の都市、韓国の都市、中国・深圳、インドネシア・ジャカルタ、タイ・バンコクの分析を行い、屋根上PVとEVを蓄電池として活用することで大幅な都市の脱炭素化に繋がり、エネルギーコストの削減にもつながることがわかりました。

今回の取り組み

今回の研究では、パリ協定の採択に重要な舞台となったフランス・パリの分析をフランスの研究所と行いました。パリは、高緯度地域(北緯48.9度)に位置しているため、太陽光発電の季節変動が大きいこと、また、冬季のエネルギー需要が高いといった太陽光発電にはマイナスの要因があります。分析には技術経済性分析を用い、2019年をベース年とし系統電力と内燃機関乗用車(ガソリン、ディーゼル)と比較して、屋根上PVとEVを蓄電池として活用した際の、電力自給率、CO2排出削減率等を求めました。分析の時間解像度は、は1時間毎です。屋根面積は都市全体の70%の活用を最大値として、乗用車はすべてEVに置き換えたと仮定し、EVのバッテリーの半分をPVの蓄電池として分析を行いました。また、パリとともに周辺地域のイル・ド・フランスの分析を行いました(図1)。

パリは、高度に都市化された地域であるため屋根上PVによって供給できる電力は30%程度に限られます(図2)。そして、PV発電の多くが、都市内で直接消費されるためEVを蓄電池として活用しても、その効果は限定的です。しかし、住宅など低層建物の多いイル・ド・フランスでは、屋根上PV(71%の屋根面積)によって、2019年の年間電力需要の78%程度の発電量を確保することが可能だとわかりました(図2)。そして、EVを蓄電池として活用することで、需給バランスとEVの電力需要を考慮しても60%程度の電力を供給することができることがわかりました。経済性を最大化した場合、2030年のコスト見積もりで23%のエネルギーコストの削減に繋がります。つまり、屋根上PVとEVを活用してパリの脱炭素化を行うためには周辺地域を含めて構築する必要があります。

図1 パリとイル・ド・フランス。フランス首都パリはパリ都市圏の中心部に相当し、イル・ド・フランスはパリ首都圏や郊外を含む地域圏。


今後の展開

フランスでは、原子力により既に低炭素の電力供給が実現しています。しかし、建物や交通、産業部門では、化石燃料が多く使われCO2排出も多くなっています。今後、コストの低減が予想されるPVやEVを活用することで、安価でCO2排出がなく供給調整の可能な電力供給を増やすことができれば、CO2排出機器や活動のさらなる電化につながり、脱炭素化をより推進させることが可能となります。屋根上PVとEVを活用したSolarEVシティー構想は、高緯度地域のパリにおいても都市の脱炭素化に大きく貢献できる可能性があります。

図2 パリとイル・ド・フランスにおける太陽光発電に使う屋根面積(地域内のすべての屋根面積に対する割合(%))とPV+EVの脱炭素化ポテンシャル。正味現在価値は、電力会社からの電力とガソリン車を使用した際と比べて、どの程度期間内(25年間)で節約になるかを示しています。


【用語説明】

注1. SolarEVシティー構想:屋根上に設置する太陽光発電(PV)と電気自動車(EV)を蓄電池として用いるシステムを都市スケールに広げる構想。エネルギー経費の大幅削減を実現しながら都市の脱炭素化が可能になる。東北大学大学院環境科学研究科の小端拓郎准教授が前職である国立環境研究所特別研究員の時から中心となって進めている。

注2. パリ協定:2015年12月にフランスのパリで開催された第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択された、2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みの協定。

注3. カーボンニュートラル:二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から、植林、森林管理などによる「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにすること。日本政府は2020年10月、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロを目指すと宣言した。


詳細(プレスリリース本文)