東北大学大学院環境科学研究科

東北大学大学院環境科学研究科

アクティビティ(2023年度)

2023/07/10 グリーン水素製造技術の研究開発拠点を設置
―産学連携による固体酸化物形電解セルの社会実装を目指して―

【発表のポイント】

  • 次世代グリーン水素製造技術である固体酸化物形電解セルの研究開発拠点を設置しました。
  • 素材・システムメーカ等の複数業種企業との共創プラットフォームを形成します。
  • 共同研究とオープンサイエンス型の産学連携で社会実装を支援します。

【概要】

グリーン電力 注1 を活用して水・二酸化炭素から水素・グリーン燃料を高効率で製造する革新的電解技術として、固体酸化物形電解セル(SOEC) 注2 が注目されています。これはエネファームType-Sとして一部実用化されている固体酸化物形燃料電池(SOFC) 注3 の逆作動ですが、電解動作特有の課題も多く、社会実装には素材からデバイス、システム、運用に至る総合的な視点、協業が必要です。

2023年7月10日に東北大学の大学院工学研究科と大学院環境科学研究科は、SOFC/SOEC技術の早期社会実装を支援することを目的として、「SOFC/SOEC実装支援研究センター」を設置します(図1)。このセンターは複数業種の企業と本学のSOFC/SOECに関する研究グループからなる共創プラットフォームです。従来の一対一型の産学共同研究に加えて、製造・計測技術、社会受容性など社会実装に必要不可欠な共通技術課題の抽出と、その解決に向けたオープンサイエンス型の研究プロジェクトを推進します。

図1 SOFC/SOE実装支援研究センターの概要

【詳細な説明】

現在、我が国では福島県浪江町で稼働するFH2R 注4 など、電力による水素製造技術の実証が進められていますが、製造コストの低減や効率改善など、さらなる研究開発が求められています。そこで従来の水溶液や高分子を電解質とする電解技術の限界を突破し、水や二酸化炭素から水素やグリーン燃料を高効率で得る革新的電解技術として、固体酸化物形電解セル(SOEC)が注目されています。これはエネファームType-Sとして一部実用化されている固体酸化物形燃料電池(SOFC)の逆反応を利用するものであり、カーボンニュートラル社会の実現に向けて世界が開発にしのぎを削っています。

例えば米国では、2021年からSOECにも関連するHydrogen Shot "1 1 1" 注5 というプロジェクトが推進されています。SOECは熱を有効利用できるため、電解に必要な電力が室温近傍で作動する既存システムよりも少なく効率が優れており、研究開発では1.5 A/cm2の電流密度で98%の効率などが性能目標として掲げられています。さらに、電解(SOEC)と発電(SOFC)動作を一つのシステムで行うことや、二酸化炭素との同時電解も可能といった特徴があります。

図2 SOFC/SOECの社会実装に関する研究課題例(左からボタン型SOECの外観・SOECの断面写真・特性評価装置)

しかしSOECには材料、デバイス、システム、運用の全てにおいてSOFCとは異なる独自の課題が多く、その社会実装には課題を産学連携で抽出・共有し、協業で解決していく必要があります(図2)。そこで、東北大学の大学院工学研究科と大学院環境科学研究科は、複数業種の企業との共創プラットフォームとして、部局間連携研究センター「SOFC/SOEC実装支援研究センター」(センター長:川田達也・大学院環境科学研究科長、副センター長:高村仁・大学院工学研究科副研究科長)を2023年7月10日に設置します。

このセンターでは、工学研究科の材料開発やプロセス・デバイス化技術、環境科学研究科の分散エネルギー学やエネルギー価値学・経済学など両部局の強みを融合することで、製造・計測技術・社会受容性など社会実装に必要不可欠な共通技術課題を抽出し、研究プロジェクトを戦略的に推進します。産学連携においては、従来の一対一型の共同研究に加えて、複数業種の企業が参画するオープンサイエンス型の協業により、共通技術課題に加えて、業種横断的課題や社会構造的課題をこのプラットフォームで一般化し、情報を共有することで産学共創研究によるSOFC/SOEC開発を促進します。

参画・連携企業としては、素材・セラミックス、システム、ユーティリティ、計測機器分野を想定しています。さらに、本学のグリーン未来創造機構 注6 、エネルギー価値学創生研究推進拠点 注7 等との連携に加え、国内外の大学・研究機関・関連団体等とのネットワーク形成を推進し、SOFC/SOECの社会実装を先導する国際的研究拠点の形成を目指していきます。

プレスリリース

【用語説明】

注1. グリーン電力:太陽光、風力、バイオマス(生物資源)、水力、地熱など、再生可能な自然のエネルギーを利用し作られる電力。

注2. 固体酸化物形電解セル(SOEC):英語名称Solid Oxide Electrolysis Cell。ジルコニア(ZrO2」)等を主成分とする酸化物が電解質であり、高温で作動できるため水蒸気・二酸化炭素を高効率で電解することが可能。SOFCの逆作動であり、一つのシステムで電解・発電のリバーシブル動作も可能。

注3. 固体酸化物形燃料電池(SOFC):英語名称Solid Oxide Fuel Cell。エネファームType-S(都市ガスやプロパンガスから水素を取り出し、その水素と空気中の酸素を反応させて、自宅で電気と温水を作るシステム)として実用化されている燃料電池。固体高分子形に比べて発電効率が高い。

注4. FH2R:2020年から稼働している「福島水素エネルギー研究フィールド(Fukushima Hydrogen Energy Research Field)」の略称。再生可能エネルギーを利用する世界最大級(10MW級)の水素製造施設。

注5. Hydrogen Shot "1 1 1":米国エネルギー省(DOE)が推進する水素エネルギーに関するプロジェクトの一つ。10年(1 decade)以内に1kgの水素を1ドルで供給する技術の開発を目指している。

注6. 東北大学グリーン未来創造機構:東北大学がこれまでに推進してきた東日本大震災からの復興及び日本の新生に寄与するプロジェクトや、東北大学が掲げるSDGsである「社会にインパクトある研究」の30プロジェクト等をさらに発展させ、新たに「Green Technology」、「Recovery & Resilience」、「Social Innovation & Inclusion」の3つの柱のもと大学の総合力を以て全学組織的に社会課題の解決へ挑み、グリーン未来社会の実現に貢献することを目的として、2021年4月に設置した。
https://www.ggi.tohoku.ac.jp/

注7. 東北大学エネルギー価値学創生研究推進拠点:2019年4月1日に設立した、「エネルギーの新しい価値観」を生み出すための学問である 「エネルギー価値学」を創生するための学際研究重点拠点。
https://www.ifs.tohoku.ac.jp/jpn/ene-kachi/